夜に寄せて

ただ呼吸を、整えるために走らせていたペンが、いつの間にか夜を描くために走り出していることに気づく。

階段を、降りた先の夕焼けに立ち止まってみたり、教室の窓の外で雨上がりに映えるみどりの葉々を横目に浅い眠りに落ちてみたり、バスに揺られながら背後で交わされるひそやかな母子の遣りとりに耳をかたむけたり日常に追われながらそれでも、何の意味もなく、なくしてしまったとて影響の無い、ことがらを振り払えない自分が居ることにもまた気づかされる。

愛が、たしかにそこにあることもわたしにはそれをどうしようもないことも、遠くとおくへと駆けてゆきたい衝動が何時だって胸のなかで渦巻いていることも、さくさくと鳴る音がすきでレタスをくちにするひとがいるとつい見てしまうことにも幼い頃、思い描いていたよりもずっとわたしにはちからがなく、どうして、と問いを放ちながら語尾には答えを含んでいることにも、昨日よりも、今日のほうがより賢いかおをして鏡に映ることができることにも夜が、こうして更けてゆくのをちいさくなって待っているしかないことにも、気づいている。

気づく、というのは崇高で身勝手な行為だとおもう。

 

 

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